岩田社長とMOTHER2「黒ごまと白ごま」の記憶
まだいろいろ残ってる
今朝、任天堂のTwitter公式アカウントがつぶやいた無機質な短文に僕は目を疑った。岩田社長の訃報だ。PDFファイルを開いてドメインを何度も確認したし、仕事中に「えっ、嘘、えっ」と何度もぶつぶつ言う姿は滑稽だったと思う。
「代表取締役 岩田 聡の逝去と異動」そんな文章が目に入ってきた。
時事通信の記事が配信されるまで、待ち構えながら誤報であることを願った。でも暫くしてその記事は配信されてきた。僕は準備していた見出しを打ち込んですぐさま校正に回した。
あー、岩田社長、死んだんだ。
テキストを入力してからの1時間くらいは周囲の音が遠くなったように感じた。しん、と静まったみたいだった。あんまり身を入れすぎちゃダメだと思いつつも、これまでの功績や評伝を少しでも伝えられたらと思って色んなリンクをかき集めた。
会ったこともないのにディスプレイがにじんだ。喉の奥の方がキュッと締まっていくのを感じた。本を読んだりテレビを見たりしたくらいでしか、接点なんてないのに。
「MOTHER2」という、糸井重里さんと一緒に作ったスーパーファミコンのゲームがある。ある片田舎に住む「ネス」が主人公の素敵なRPGゲームだ。
ゲームの開発が頓挫した時に岩田さんがやってきて「いまあるものを活かしながら手直ししていく方法だと2年かかります、イチからつくり直していいのであれば、半年でやります」と言って、実際に半年で動かし、1年で製品化したという逸話はとても有名だ。糸井さんが岩田さんを「神」と呼び、親交を深めた始まりがそこにあった。
その「MOTHER2」のゲームの中に、黒ごまと白ごまをめぐる砂漠の隠しイベントがある。黒ごまのために白ごまを探さなくてはいけないというイベントだ。
「むかしつめたくした白ごまに、もしもあえたらあやまりたい」。そんな黒ごまのために。
何が面白いって、白ごまを探さなきゃいけないのだけれど、それが砂漠のど真ん中。全部ドットだから全く見つからないの。ベージュっぽいドットの塊から、白いドットを見つけなきゃいけない。
「まじかよwww」。腹を抱えて笑った。
隅から隅まで歩いて白ごまを探すのだけど、これが苦労する。まあ、別に見つけなくて良いのだ。スルーしてストーリーを進めてもなんの問題もない。でも、やり込み症だった僕はだだっ広い砂漠を歩きまくった。
やっとの思いで見つけた白ごま。話を聞くに、どうやら今でも黒ごまのことを好きらしい。なるほど。そのことを伝えに黒ごまのもとへ戻ると、「えっ、白ごまが…まだおれをすきだと!?ホロリ…」。
それで終わりだ。別に意味なんてないしストーリーもないのだけれども、僕は幼ながらに「愛情ないし友情とはこういう風に成り立つのかもしれない」とぼんやり思った。単純にいいなと思った。そんな「一見無意味そうに見えることにも意味を持たせる」みたいなことをちゃんとやるゲームだった。そんなゲーム、他にはmoonくらいしかない。
ほぼ日のエッセイで、糸井さんは「とにかくさ、『また会おう』。いつでも、どこでも呼んでくれたらいいし、ぼくも声をかけるからさ。なにかと相談したいこともあるし、いいこと考えたら伝えたいしさ。」とつづった。
岩田さんは遠くに旅立ってしまった。岩田さんと「また会う」なんて、砂漠のど真ん中で白ごまを探すよりも難しい。それでもまあ、たぶんいいのだと思う。白ごまと出会えなくても、ストーリーは進むのだ。
糸井さんはTwitterでこうつぶやいた。「いまは、『暗くしていないで、せいいっぱいの今日をたのしんでください』と、岩田さんは言うと思います」。もう暫くすると、また今日が始まる。くっそ早いのでちょっとでも寝なきゃ。おやすみなさい。