@d_tettu blog

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花見で出会った、くだもの売りのおじさんが連呼する「大地の味」

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上野駅に降りて最初に目に入ったのは、駅員さんが振るオレンジ色の誘導棒だった。

花見の時期に上野駅に来るのが初めてだったこともあり、予想以上の混み具合にやや胸焼けしたような感触を抱く。これからあの人混みをかき分けて桜を見に行くのか…。

その日は比較的暖かったこともあり、街をゆく人たちは一様に軽めの装いをしていた。缶ビール片手に顔を赤くして笑顔(眼の焦点はあっていない)で歩く人がいれば、大学生と思しき男性に愉快な表情で話しかけるおじいちゃん(ぼっち)もいる。それぞれがそれぞれの花見を楽しんでいるようだった。

春だねえとぼんやりと思いながら、iPhoneを片手に上野公園内をふらふらと歩く。先輩方との約束の時間からもう4時間ほど過ぎていたので、ここまでくると怖いものはもう何もなかった。片手にはクラフトビールの束。遅刻して誠に申し訳ありません。

待ち合わせの場所に着くと、そこには既に宴会を楽しんでいる先輩方の姿。会ったこともない女の子もいるが、それは気にしないでおこう。このタイミングなら逆に好都合かもしれない。遅刻してきた出来の悪い後輩に回す気などどこにもない。

「おれものまねできるんだ〜あったかいんだかr「仕事はなにしてるの?あ、職種職種!事務とか営業とk「いやーこんなにいっぱい人がいるけど、やっぱり2人は輝いてた。これは奇跡だね、きs」

話している内容が良くわからなかったので、僕はその間に炎上案件を抱えてしんどそうな某通信業界の後輩と話していた。「今度チームラボのイベントに行きませんか?5月にあるらしくて、ちょっと行ってみたいんですよね」と、彼はこちらを見て言った。いいね、行ってみようか、と僕は返して手元にある缶ビールに口をつけた。ほんの少しの苦味が喉を潤した。

暫くして女の子たちが去り、なぜか男だけの山手線ゲームが始まった。どう考えてもやるタイミングを間違えている。アラサー集団。

「やーどうもどうも!お待たせしました!」

そこに笑顔のおじさんが割って入ってくる。僕らは一同にえっという表情を浮かべ、ただそのおじさんの方をぼんやりと見ていた。自分たちのほうが何か間違えているような気がして、どうにか正しい返事をしようと言葉を探しているような空気が漂う。

「大地の味、春の香り。くだもの美味しいですよーどうですか!?」

両手で支えられた緑色のプラケースの中には、はっさくのような果物。どうやら訪問販売的なやつのようだ、とそれぞれうつむく。別に要らねえなあ、どっか行ってくれよ興ざめだよ、というように。「これがねえ、美味いんだよ、大地の味!」。大地の味がどんな味であるのか、僕はぼんやりと考えていた。大地がどのようなものであるのか、それは僕の想像の範疇外だった。実態が伴っていない。雰囲気ワード。

おじさんは表情を崩さずにこちらを見ている。やがて後輩の一人がその口を開いた。「おでん食いたいんだよ、おでん。大根とちくわ」。おじさんの方に顔を向けずに、左手だけを上げて答えた。

「おでんならその下を降りたところにあるんじゃないかな」。口調を変えずにおじさんは答えた。表情も変えていない。求められた回答をしなかったからかもしれない。定型句のように淀みなく流れたその言葉は、どことなく工場のライン作業を思い出させた。オデンナラソノシタヲオリタトコロニアルンジャナイカナ

先輩の一人が酔ってお札を出しておじさんに差し出した。いいね、美味しそうだね、それくれよ、ここで食いてえからさ、それ割ってくれよな。

おじさんはニコッと笑って、はっさくのような黄色のくだものを3つ出してそれを配った。その間も大地の味、大地の味と言っていた。

僕はその配られたはっさく(仮)を食べた。そうかこれが大地の味か。「美味いですねーうん、やっぱり。大地の味って感じですよー」。誰も笑わなかった。もしかしたらみんな大地の味に感激しているのかもしれない。うつむいて黙々と食べている。

はっさく(仮)を配り終わったおじさんは、それじゃ、と笑顔で上野公園の奥へと走っていった。おじさんの遠くなる後ろ姿は四文字熟語にするなら「孤軍奮闘」というような印象だった。上野公園を駆ける一人のくだものソルジャー、これが売れないと生きていけない、これが売れればきっと何かが良くなるはず。はっさく(仮)3つで1,000円。なるほど、こういう商売もあるのか。

そういえば、と思い、僕はiPhoneを取り出して色々と検索をしてみる。そこには幾つかのまとめが並んでいた。実際にどうなのかはわからない。ただ、僕はその「大地の味」とやらが、どこの誰にとって嬉しいものなのか、暫く考えても思い浮かばなかった。

花見をしていたのに変なこともあるもんだなあ。matome.naver.jp
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